漆刷毛工房   ひろしげ  日本の伝統工芸  漆芸用漆刷毛

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漆刷毛の製作工程

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漆刷毛の製作工程−1−毛洗い

 1 毛洗い(けあらい)

漆刷毛には切ったばかりの髪毛ではなく、ある程度の期間が経って脂気の抜けた、「赤毛」(あかげ)を用います。

1975年ぐらいまではすべて日本人の髪毛を使用してましたが、以後90%は中国産毛髪を使用するようになりました。

1999年頃から日本人髪毛の集荷システムは壊滅状態となり、まとまった量を集めることは現在は不可能になりました。

集荷された、または輸入された髪毛にはホコリ、ゴミ、よごれがかなり付着しているのでこれらを洗い流す必要があります。


熱湯で何度も良く洗い、さらに微量の薬品を溶かした湯で脂分を抜き、流水でよくすすぎます。

それをゆっくりと天日で干して乾かします。急いではいけません。このときに10−20%の毛は落ち毛としてなくなってしまいます。

  2 毛揃え(けぞろえ)

洗い終わった毛の腰のあるなしを選別し、また長さを揃える作業です。この工程は一番単調でしかも根気のいる大変な作業です。

細い毛を数十本単位でつかみ、引っ張る指先は、慣れるまでには熱を帯びて腫れ上がるほどです。この工程で、折れたり曲がったり、からんだりしている悪毛が取り除かれ、約半分ほどになってしまいます。

漆刷毛の製作工程−2−毛揃え

漆刷毛の製作工程−2−毛揃え2 悪毛を取り除いた上塗刷毛に使用できる腰のある良質髪毛はほんの3割程度しかありません。

さらに極上の刷毛に用いる純良赤毛は最初の量のたった1割です。しかし、きれいに揃った髪毛はまっすぐにピ−ンとして光沢もあり、 どなたがご覧になってもわかるほどにすばらしいものです。

 3 毛固め(けがため)

漆刷毛の品質を決める、一番重要無な工程です。その作業は生漆(きうるし)を使った、刻々と乾いていく糊漆を使用するために、仕事を始めたら終わるまでほとんど席を立てない作業です。

漆刷毛の製作工程−3−毛固め1

漆刷毛の製作工程−3−毛固め2

温度や湿度、毛固めしようとする毛板の巾、厚さなど様々な条件によって違う、この毛固め用の糊漆の調製は、出来上がりの正否を決める重要なものであり、かなりの年数の経験が要求されます。

揃えた髪毛の一本一本に、櫛で梳かしながらこの糊漆を染み込ませていきます。荒櫛、中櫛、さらに細かい仕上げ櫛と、1枚の毛板を作るのに最低約150回も櫛を通します。

ですから、1日20枚の毛固めで約3000回、4日もやると12000回にものぼり、肩が痛くなり腕も上がらないほどになります。

一番気を使い体力も使う工程です。毛、一本一本に染み込ませないと、スカスカとしたいわゆる鬆の空いた漆刷毛になってしまうのです。 櫛で染み込ませ、金ベラで押しつぶして平らにしていきます。この平らにする作業でいかに密度高く毛固めをするかが重要です。


ただ糊漆で固めただけでは、ほぐしても漆の含みが悪い、腰の弱い刷毛になってしまうのです。

 丁寧にやらなければなりませんが、糊漆は刻々と乾いていき、髪毛は 急速に締っていきます。ゆつくり作業していると今度は櫛が二度と通らなくなってしまいます。まさに時間との勝負です。

 4 毛板の乾燥 (けいたのかんそう)

この毛板の乾の重要な点は自然乾燥でゆっくりとやっていくことです。人工的に急速乾燥させてしまうと、反ったり割れが入ったりしてしまい、今までの工程がすべて無駄になってしまいます。

また、表裏均一に乾燥させるために一定時間ごとに裏返しをしてやらねばならず、ある程度の乾燥が進むまでの3−4日は外出もままなりません。とくに気温の高い夏場は要注意であり、できれば毛固めの工程には 避けたい季節であります。

漆刷毛の製作工程−4−毛板の乾燥

漆刷毛の製作工程−5−板作り1

 5 板作り

漆刷毛師には、髪毛を扱うかもじ屋の仕事の他に、板作りの指物師のような仕事も 要求されます。

1960年頃までは檜の丸太を東京・深川の木場の専門問屋より購入し、鋸、鉈を使って板作りをしていましたが1970年頃から製材所で所定の厚さの板にしてもらえるようになり、少し楽になりました

しかし、最終的には、鋸、鉋を使って、必要な長さに切り、巾寸法に加工し、平らに削ることは江戸時代から変わりません。

刷毛板には、品種により、細かな柾目の天然木曽檜、アラスカ檜(スプルース)南洋檜(アガチス)を使用します。


漆刷毛には、板に節があったり目が曲っているものは使えません。真っ直ぐなものだけです。良い板作りなので削るときには逆目ができにくく、使用する鉋は 一般的に目にする2枚鉋ではなく、今では特殊な部類に入る1枚鉋(平鉋)となります。

使用する鉋の巾は1寸8分.1寸6分.1寸4分、小鉋。それぞれ荒削り、中仕工、仕上げ用、さらには5分の内丸鉋、などおよそ50種類もの鉋を使いこなしていきます。

鉋を研ぐ、ということも簡単にはいきません。相当な技術が必要かと思います。

削る種類によって、鉋の研ぎ方も微妙に違ってきます。砥石の選定にも苦労します。

刷毛板には上下、左右と4枚使いますが、何でも良いわけではなく、上下の板は目の詰まり具合、木肌の合ったものを選別して1組として使用します。

目が揃っていないと、上下で乾燥具合が違ってきてソリの原因となり、また 完成した漆刷毛が道具として美しくありません。

漆刷毛の製作工程−5−板作り2

漆刷毛の製作工程−6−巻込作業1

 6 毛裁ち (けたち)

完全に乾燥して硬く締まった、まるで昆布のようになった毛板を鉋刃で切断します。抜け毛がでないように、もったいないようですが長さの上下3割程度は切り捨ててしまい、 中程の良いところだけを使用いた します。

こうして最後までくると、最初の原毛の6割、上塗りは2割、さらに極上用にいたっては1割に満たない分しかないことになります。 まさに貴重な髪毛 といえるでしょう。

そして、長さを切った毛板を、作る漆刷毛の巾に合わせて鉋刃でキッチリと裁ち落としていきます。

刷毛板から少しでもはみ出ていると、次の巻込工程で隙間ができる原因になりますので、板と毛板の面合わせを指先の感覚だけをたよりに調べて正確に裁っていきます。

指先も漆刷毛師にとって大事な道具のひとつです。


 7 巻込 (まきこみ)

この工程が2番目に大事なところです。

毛固めのときよりも硬めに作った糊漆で、作っておいた板と毛板を張り合わせ、丈夫なある程度の太さの紐でしばっていきます。

写真にある通り、紐を口にくわえて行う作業ですが、これは紐の引っ張り加減を口で感じ取り、調製するためです。

ヌルヌルとしているために、慣れないと左右にずれてしまったり、締め方がきつかったりゆるかったりしてしまいます。

次に、漆刷毛の巾に合わせて製作してあるクサビを表裏、上下と4枚打ち込んで締めていきます。

これは、あぐらをかいて座っている自分の左膝を台として叩いていくのです。こうすることで、クサビの入り方、紐の締め具合が体で感じ取れるのです。 この作業も、1日やると立ち上がれないほどになってしまいます。

これらの工程でもわかるように、手、指の他に、口、膝も使い、体全部が製作の大事な道具となります。

ちなみに2010年、40年間使い続けた左膝の半月板は割れてしまいました。父親・八世 泉清吉は、入れ歯になったら漆刷毛師は引退すると言い続けていました。 私も同じ覚悟でおります。

漆刷毛の製作工程−6−巻込作業2

 8 乾燥

巻込の終わった刷毛は、半年でも1年でもできる限り長期間、自然乾燥させます。決して急いで強制乾燥させてはいけません。

急がされて1カ月ぐらいの短期間でエイヤッとばかりにやりますと、最終仕上げをしてから完成した後で、雨や日照りなどの気候変動でアッという間にソリ、ネジレが出てき て失敗となってしまいます。

従って、漆刷毛は、ご注文を受けてからすぐさま出来上がるということはなく、最初の工程から作り始めれば、最低半年はかかってしまうものです。

ただし、現代ではそうもいかずに、通常品はできるだけ乾燥の時点までの在庫をしておくようにしていますが特注はそうはいきません


 9 仕上

十分に乾燥の終わった漆刷毛を、鉋で徐々に板を削って薄く仕上げていきます。

上下の厚さを均一に少しづつ削っていかないと、刷毛が反ってきてしまいまので注意が必要なのです。

そして、最後は上下の板の厚みを微妙に違えて、反りを押さえるためのバランスを取ります。

 10 毛摘み  (けつみ)

ここが最後の大事なポイントです。また、刷毛の出来具合の最終チェックでもあります。


切出した刷毛先を鉋で尖らせる作業ですが、単に尖らせるのではなく、腰の強さを出すために砲弾型にきれいなカーブをつけて尖らせます。

やり直しのきかない、この微妙なカーブをつける作業をするにはかなりの経験が必要となります。

使用する鉋刃も良く研いで、相当に切れるものを使用しないと硬く締まった毛先を削ることはできません。えぐってしまったら逆に腰の弱い刷毛となってしまいますので、細心の注意が必要で あり、とても気を使います。

尖らせた毛先を見て、板と毛板との接着状態、毛の密度の状態を確認します。そうして、問題がなければようやく1枚の漆刷毛が出来上がったことになります。長い長い工程でした。


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